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複数条件の場合はキーワードの間にスペースを入れてください。2級ガソリン自動車整備士・試験問題
2G 登録試験 2025年10月 問題18
解説
(1)左右輪の回転速度差がない状態では、ビスカス・トルク (差動制限力)は発生しない。
選択肢(1)は、適切です。
(2)インナ・プレートとアウタ・プレートの回転速度差が大きいほど、大きなビスカス・トルクが発生する。
選択肢(2)も適切です。
(3)左右輪に回転速度差が生じたときは、 ビスカス・カップリングの作用により、高回転側に大きな駆動力が発生する。
選択肢(3)が不適切です。
正しくは以下の通りです。
ビスカス・カップリングのインナ・プレートとアウタ・プレートの回転速度差が生じると、高回転側から低回転側にビスカス・トルクが伝えられ低回転側に大きな駆動力が発生する。
1. ビスカス・カップリングの構造と原理
回転速度差感応式の差動制限を実現する主要部品がビスカス・カップリングです。
1-1. 内部構造
ビスカス・カップリングは、円筒形のケースの中に、中心の軸とケース内壁にそれぞれギザギザが噛み合わされた複数の円盤状のプレートが、交互に挿入されて構成されています。
- インナ・プレート (Inner Plates):
ディファレンシャル・ケース内のサイドギヤ、すなわち低回転側(グリップしている側)の車輪軸に接続されています。 - アウタ・プレート (Outer Plates):
ディファレンシャルのデフケース、すなわち高回転側(スリップしている側)の車輪軸に接続されています(※デフケースはリングギヤと一体で回転)。 - 封入オイル:
プレート間には、温度が上がると粘度が急激に高まる特性を持つ高粘度のシリコン・オイルが充填されています。
1-2. ビスカス・トルクの発生メカニズム
これがビスカスLSDの核となる原理です。
- 回転速度差がない状態(直進・緩やかなカーブ):
左右輪の回転速度差が小さいため、インナ・プレートとアウタ・プレートの相対的な回転速度差も小さいです。シリコン・オイルは通常の粘度を保ち、抵抗(ビスカス・トルク)はほとんど発生しません。このとき、LSDは通常のオープンデフとして機能します。 - 回転速度差が生じた状態(片輪のスリップ):
片側のタイヤが雪道やぬかるみなどで空転し始めると(例:右輪がスリップして高回転)、インナ・プレート(低回転側)とアウタ・プレート(高回転側)の間で大きな回転速度差が生じます。- この大きな回転差により、プレート間のシリコン・オイルが激しくせん断され、攪拌されます。
- オイルのせん断抵抗(粘性)が急激に高まり、オイルが発熱して膨張する現象も加わることで、オイルの粘度が極端に増加します。
- その結果、オイルの強い粘性抵抗を通じて、プレート間に大きな摩擦(せん断抵抗)が発生します。この摩擦によって発生する回転力をビスカス・トルク(差動制限力)と呼びます。
2. 駆動力の伝達と差動制限
ビスカス・トルクは、ディファレンシャルが持つ駆動力を左右輪に均等に配分しようとする作用を一時的に制限します。
2-1. トルクの伝達
ビスカス・トルクは、高回転側のプレート(アウタ・プレート側)から低回転側のプレート(インナ・プレート側)へと伝えられます。 $$\text{高回転側(空転輪)} \xrightarrow{\text{ビスカス・トルク}} \text{低回転側(グリップ輪)}$$2-2. 駆動力の回復
ビスカス・トルクが低回転側の車輪軸に伝達されると、以下の現象が発生し、低回転側の車輪(グリップしているタイヤ)の駆動力が回復します。
- 空転の抑制:
ビスカス・トルクが高回転側のプレートの回転を抑制します。 - 駆動力の移行:
ディファレンシャルは、駆動力配分の関係で、左右輪のスリップトルク(路面に伝えられるトルク)がほぼ等しくなる性質があります。通常、空転側のトルクが小さくなると、グリップ側のトルクも小さくなってしまいます。 - LSDの作用:
ビスカス・トルクがデフの内部に抵抗を生み出すことで、空転側のトルクが小さくなっても、グリップ側の車輪に、より大きな駆動力を発生させることが可能になります。
結果として、「低回転側に大きな駆動力が発生する」という効果が生まれます。これにより、片輪が空転しても、車は駆動力を失うことなくスムーズに発進・走行を継続できます。
ビスカスLSDは、作動が滑らかで違和感が少ないという利点がありますが、差動制限が効くまでに若干の時間差がある(シリコン・オイルの粘度変化に時間がかかる)という特性も持っています。
(4)ビスカス・カップリングには、高粘度のシリコン・オイルが充填されている。
選択肢(4)は、適切です。